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2013年3月9日土曜日

ウィリアム・シェイクスピア ヘンリー六世 第1部

ヘンリー六世 第1部
シェイクスピアが『ヘンリー六世 第1部』で主に材源にしたのは、ラファエル・ホリンシェッド(Raphael Holinshed)の『年代記(Chronicles)』(1587年出版の第2版)で、それが劇に「terminus ad quem(目標)」を与えた。エドワード・ホール(Edward Hall)の『ランカスター、ヨーク両名家の統一(The Union of the Two Illustrious Families of Lancaster and York)』(1542年)も参考にしたようで、研究者たちは他にも、サミュエル・ダニエル(Samuel Daniel)の薔薇戦争を題材とした詩にシェイクスピアは通じていたのではと示唆している。

1588年のアルマダの海戦でスペイン無敵艦隊を破って以来、イングランドの愛国心は頂点に達した。この愛国心が観客の史劇への関心を高めることになった。

あらすじ
第1幕
先のイングランド王ヘンリー五世の死の余波から劇は始まる(しかしシェイクスピアの『ヘンリー五世』が書かれるのは後のことである)。そこにフランスでのイングランド軍の軍事的敗北の報せが届く(第1場)。

舞台はイギリス海峡を越えて、フランスのオルレアンに移る。乙女(ジャンヌ・ダルク)が皇太子に抗戦を訴える(第2場)。乙女はタルボット卿率いるイングランド軍を打ち負かす(第5場)。

第2幕
タルボット卿とその仲間たちはオーヴェルニュ伯爵夫人の城で罠にかかるが、あらかじめ罠を見抜いていたタルボットは伯爵夫人の裏をかく(第3場)。

一方、イングランドではリチャード・プランタジネットがサマセット公と口論している。二人はどちらの主張が正しいかを示すため、それぞれ赤薔薇と白薔薇を選ぶ。(第4場)

王位を主張するエドモンド・モーティマーはロンドン塔に幽閉されている。モーティマーはリチャードが自分の相続人だと宣言する。(第5場)

第3幕
若いヘンリー六世は叔父で摂政のグロスター公と大叔父のウィンチェスター司教との不和に悩んでいる。一方で、リチャードの名誉を回復し、ヨーク公に叙する。(第1場)

第4幕
ヘンリー六世が無心に赤薔薇を選んだことで、サマセット公とヨーク家の対立は深まる。(第1場)

その結果としてタルボット卿とその息子ジョンがフランス軍との戦いで命を落とす。(第7場)

この対立は後には、赤薔薇のランカスター家と白薔薇のヨーク家の薔薇戦争を引き起こすことになる。

第5幕
ヘンリー六世は、戦争をすみやかに終わらせたい教皇や他国の圧力を受け、アルマニャック伯の娘との結婚に同意する。(第1場)

ヨーク公はアンジェでイングランド軍を勝利に導き、ジャンヌを捕らえる。一方、サフォーク伯は捕虜にしたマルグリット(マーガレット)・ダンジューに恋してしまう。(第3場)

ジャンヌは火あぶりの刑に処せられることが決まった後、ウィンチェスター司教が到着し、ヨーク公とフランス皇太子シャルルに休戦の条件を伝える。二人は不満だったが、条件を受け入れ、シャルルはヘンリーの下で副国王の地位に就く。(第4場)

サフォーク伯はヘンリー六世とマルグリットの結婚を取り決める。マルグリットを通じてヘンリー六世を支配しようと企んでのことだった。(第5場)

劇の終わりには結論部が欠けている。締まりの悪い構成は(上述した)合作の結果かも知れないし、続編の『ヘンリー六世 第2部』と相前後して書かれたせいなのかも知れない。

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