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《筑摩書房》シェイクスピア 小津次郎/喜志哲雄他訳世界古典文学全集43 シェイクスピア3 ヘ... |
『ヘンリー六世 第3部』(ヘンリーろくせい だいさんぶ、The Third Part of King Henry the Sixth または Henry the Sixth, Part 3)は、ウィリアム・シェイクスピアの史劇で、1590年頃の作と信じられている。イングランド王ヘンリー六世の時代が舞台で、書かれた順番ははっきりしないが、『ヘンリー六世 第1部』、『ヘンリー六世 第2部』の続編で、シェイクスピアの代表作にして問題作の『リチャード三世』に繋がる作品である。
『ヘンリー六世』三部作の中では最も優れていて、感動的なドラマを作りあげるシェイクスピアの才能の証拠であると言われている。その中でも、特筆すべきは以下の場面である。
第1幕第4場 - 幼い息子の血で染まったハンカチで涙を拭えと言う残忍な王妃マーガレットに対するヨーク公の激しい非難(「O tiger's heart wrapp'd in a woman's hide!(おお、女の下に隠された虎の心!)」)。それに続く、マーガレットとクリフォード卿によるヨーク公への拷問のような罵りとその末の殺害。
第2幕第5場 - 戦争で我が子を殺した父と、その逆に父親を殺した息子の嘆きを耳にして、戦争の悲惨さと王の試練に苦悶するヘンリー六世。
第5幕第5場 - 復讐のため息子を目の前で惨殺された王妃マーガレットの悲痛さ。
第5幕第6場 - ヘンリー六世の劇的な最期。
第3幕第2場 - 上記のシリアスさとうってかわって、好色なエドワード四世が人妻を口説く滑稽なシーン。後のシェイクスピアのロマンティック・コメディを暗示させる。
前2作同様、『ヘンリー六世 第3部』は、ホールやホリンシェッドの年代記といった歴史的文献を元にしているが(詳細は後述)、ドラマのために事件を潤色・圧縮・変更している。とくにのちのリチャード3世、グロスター公リチャードは歴史を歪め、劇的に、奇怪なマキャヴェリストとして、歴史上の人物あるいは人間というよりも歴史のメカニズムの代弁者として描いている。さらにリチャードは劇の登場人物ならしめるために実際の年齢より相当加齢させているが、これはルネサンス期の史劇ではよくあることだった。
あらすじ
第1幕
劇はヨーク公リチャードと現イングランド王ヘンリー六世、ならびにそれぞれの支持者たちの対面で幕を開ける。ウォリック伯リチャード・ネヴィルの武力行使も厭わぬ脅迫で、ヘンリー六世はヨーク公を王位継承者にすると約束する。その臆病さに失望して、ヘンリー六世は支持者たちからも見放される。王妃マーガレット・オブ・アンジューはこの約束に同意できないと明言し(第1場)、若きクリフォード卿たち、息子である皇太子エドワードの助力を得て、ヨーク家軍に宣戦布告する。(第2場)
ウェイクフィールドの戦い(1460年)でヨーク家軍は敗れる。クリフォード卿がヨーク公の幼い息子(実際は17歳で戦いにもフルに参加していたのだが)ラットランド伯を殺害するくだりは、シェイクスピアの作品の中でも血生臭く胸が引き裂かれるような場面の一つである。(第3場)
さらにマーガレットとクリフォード卿はヨーク公を愚弄したうえに殺害する。(第4場)
第2幕
ウォリック伯とヨーク公の長男エドワードらは、タウトンの戦い(1461年)でマーガレットの軍に報復し、クリフォード卿は戦死する。戦いの後、エドワードは王エドワード四世を宣言し、ジョージをクラレンス公、リチャードをグロスター公にする。リチャード(のちのリチャード三世)はシェイクスピア劇の有名な悪役の一人で、その徴候をうかがわせるが、実際にはこの戦いの当時、まだ10歳にもなっていなかった。(第3場 - 第6場)
第3幕
ウォリック伯はフランス王の妹をエドワード四世の妃にもらおうとフランス王宮に行く。そこにはマーガレットと皇太子エドワードがいてフランスに援軍を頼んでいるところだった。しかし、エドワードがレディ・グレー(エリザベス・ウッドヴィル)と結婚したと聞かされて、ウォリック伯はエドワード四世を見限って、マーガレットと和解し、娘を皇太子エドワードに嫁がせることにも同意する。(第3場)
第4幕
ウォリック伯のもう一人の娘は、仲間になったクラレンス公に嫁がせることにする。(第1場)
ウォリック伯たちの侵攻は成功し、エドワード四世を捕虜とするが(第2場)、すぐに弟リチャードと忠実なヘイスティングス卿により救出される(第5場)。
ヘンリー六世は再び王に復位し、ウォリック伯とクラレンス公を摂政に任命する。そこにエドワード四世逃亡の報せが届き、ジョン・オブ・ゴーントの子孫でランカスター家の相続人たりうる若きリッチモンド伯(のちのイングランド王ヘンリー七世)は身の安全のためフランスに船で亡命する。(第6場)
第5幕
バーネットの戦い(1471年)でエドワード四世はウォリック伯を打ち負かし、ウォリック伯は戦死する。(第2場)
続くテュークスベリーの戦いでは、エドワード四世は皇太子エドワードを殺害し、王妃マーガレットを捕虜とする。(第5場)
ひそかに王の座を狙うグロスター公リチャードは、その手始めにロンドン塔に幽閉されていたヘンリー六世を暗殺する。この時、ヘンリー六世はリチャードの極悪非道な生涯と未来の汚名を予言する。(第6場)
劇はヨーク家の輝かしい勝利で終わる。エドワード四世には息子も生まれる。ランカスター家の者は殺されるか追放するかする。リチャードだけがまだ続きがあることを知っている。(第7場)
シェイクスピアが『ヘンリー六世 第2部』で主に材源にしたのは、ラファエル・ホリンシェッド(Raphael Holinshed)の『年代記(Chronicles)』(1587年出版の第2版)で、それが劇に「terminus ad quem(目標)」を与えた。エドワード・ホール(Edward Hall)の『ランカスター、ヨーク両名家の統一(The Union of the Two Illustrious Families of Lancaster and York)』(1542年)も参考にしたようで、研究者たちは他にも、サミュエル・ダニエル(Samuel Daniel)の薔薇戦争を題材とした詩にシェイクスピアは通じていたのではと示唆している。
あらすじ
第1幕
イングランド王ヘンリー六世と若きマーガレット・オブ・アンジューの結婚から劇は始まる。マーガレットはサフォーク公ウィリアム・ドゥ・ラ・ポールの「protégée(被保護者)」(おそらく愛人)で、サフォーク公はマーガレットを通じてヘンリー六世に影響を与えようと企んでいる。(第1場)
その邪魔になるのが国民に人気のある摂政のグロスター公ハンフリーで、王妃マーガレットはグロスター公爵夫人エリナーと宮廷で優位を競い合う。エリナーはサフォーク公の密偵によって魔術に首を突っ込み(第2場)、その後逮捕される(第4場)。しかし、エリナーが召喚した悪霊はこの劇の登場人物3人の運命を予言し、それは不幸にもことごとく的中することになる。
第2幕
ヨーク公リチャードはソールズベリー伯とウォリック伯に自らの王位の正統性を打ち明け、二人の伯はヨーク公の支持を誓う。(第2場)
第3幕
グロスター公は、反逆罪で訴えられ、逮捕される。一方、ヨーク公リチャードは、アイルランドの反乱を鎮圧する軍の指揮官に任命される。ヨーク公は、この機会を利用しようとする。元・士官のジャック・ケイドに王国全土を脅かす乱を起こさせ、その鎮圧を名目にアイルランドにいる軍を率いて、イングランドに戻り、王座を手に入れようと計画する。(第1場)
サフォーク公は殺し屋たちを使ってグロスター公を暗殺する。しかし陰謀がばれ、サフォーク公は追放され、マーガレットは悲しむ。(第2場)
第4幕
悪霊の「水によって彼は死ぬだろう(by Wa'ter shall he die)」という予言通り、サフォーク公は海賊のウォルター(Walter)に殺害される。(第1場)
マーガレットはサフォーク公の血まみれの首を膝に抱き、悲しむ。(第5場)
第5幕
ヨーク公は軍を引き連れてイングランドに戻ったが、ケイドの乱は既に鎮圧されていた。口実を失い、ヨーク公は軍を連れて戻ったのはヘンリー六世をサマセット公から守るためだと弁明する。しかし王妃マーガレットとクリフォード卿の反論に遭い、ヨーク公は王位の正統性を主張し、息子のエドワード(未来のイングランド王エドワード四世)とリチャード(未来のイングランド王リチャード三世)もそれを支持する。(この時リチャードはまだ子供で戦闘では簡単に負かされたという歴史的正確さを無視したのは、シェイクスピアがリチャード三世を大悪役に構築しようとしたからである)。(第1場)
イングランドの貴族たちは二派に分かれてセント・オールバーンズの戦いを始める。サマセット公は未来のリチャード三世に殺され、クリフォード卿はヨーク公に殺される。クリフォード卿の息子はヨーク家側への復讐を誓う。(第2場)
ヘンリー六世はロンドンに撤退し、ヨーク家軍が追撃するところ(第3場)で劇は終わり、『第3部』に続く。
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