新潮文庫【1000円以上送料無料】夏の夜の夢・あらし/シェイクスピア/福田恆存【RCP】 |
『夏の夜の夢』(なつのよるのゆめ、原題:A Midsummer Night's Dream)は、ウィリアム・シェイクスピアによって1590年代中頃に書かれた喜劇形式の戯曲。全5幕からなる。アテネ近郊の森に脚を踏み入れた貴族や職人、森に住む妖精たちが登場する。人間の男女は結婚に関する問題を抱えており、妖精の王と女王は養子を巡りけんかをしている。しかし、妖精の王の画策や妖精のひとりパックの活躍によって最終的には円満な結末を迎える。
幾度か映画化もされている。他にも後世に作られた同名の作品が複数ある。坪内逍遥訳をはじめ古い翻訳では『真夏の夜の夢』(まなつのよのゆめ)と訳されることが多かった(日本語訳タイトルの節を参照)。
オーベロンとタイターニアの喧嘩:中央左がタイターニア、中央右がオーベロン。タイターニアがかばうようにしているのがとりかえ子。周りには森の妖精が描かれている。 |
ヨーロッパでは夏至の日やヴァルプルギスの夜に、妖精の力が強まり、祝祭が催されるという言い伝えがある。劇中でも小妖精のパックや妖精王オーベロンなどが登場する。特にトリックスター的な働きをするパックは人々に強い印象を与え、いたずら好きな小妖精のイメージとして根付いている。Puck はもとはプーカ Puka などとして知られていた妖精のことである。
『夏の夜の夢』の執筆時期と最初の上演がいつだったのか正確な日付は不明であるが、1594年から1596年の間であったと考えられている。1596年2月のトーマス・バークレイ卿とエリザベス・キャレイの結婚式で上演するために書かれたとする説もある。『真夏の夜の夢』の構想の元となった作品は不明であるが、個々の登場人物や出来事は、ギリシャ神話や古代ローマの詩人オウィディウスによる『変身物語』、アプレイウスの『黄金のロバ』といった古典的な文学から流用されている。
真夏の夜の時節
作中ではタイトルの「真夏の夜(midsummer night)」が何月であるとは明記されていない。本作品の時節がいつごろかについては、五月祭(5月初日)説と夏至(6月下旬)説の両方が挙げられている。
サミュエル・ジョンソンによる『シェイクスピア全集(英語版)』(1765年初版発行)では既に「なぜシェイクスピアは、『真夏の夜の夢』と題したか解せない。(5月1日の)メーデーの前夜に起きたことだと、わざわざ我々ご注進しているのだから」という疑問が提示されていた [1])。この注のすぐ後のシーシアスの台詞に「おおかた五月の祭典を見に早起きしてまいったのであろう」[2]という台詞があるのだ。ドイツの学者で英雄譚編訳者としても著名なカール・ジムロック(英語版)などもやはり5月1日(ヴァルプルギスの夜)の見解を支持している[3]。また5月1日は、ケルトのベルテン節(英語版)と重なるが、これは、いわば春場のハロウィーンである。近年の本邦の書物にも五月節説を取るものが刊行されている[4]。
しかしジョンソン版は出版にこぎつけるまでに手間取っているうちに、それを出し抜く形でドイツのクリストフ・マルティン・ヴィーラントがドイツ訳(1762-65年)を発表し、『ある聖ヨハネ祭夜の夢(Ein St. Johannis Nachts-Traum)』という訳題を世に出してしまった。この聖ヨハネ祭 (St. John's Eve) というのはおおよそ夏至に重なる節目で、特にゲルマン文化圏で精霊らが活発になると信仰されてきた時節である。ヴィーランドは後に『オベロン』(1780年)を著したことから、その見解は妖精学の権威のような説得力を持ったとも考えられる。英語圏でも、アングロサクソン人の間でそのような信仰があったことを指摘する本戯曲の注釈本[5]等の支持例がある。
ドイツの作曲家メンデルスゾーンの場合、どちらともつかずだが、とにかく「真夏」とはせず、題名を「ある夏の夜の夢の序曲(Ein Sommernachtstraum: Ouvertüre (op. 21))」や「劇付随音楽(Sommernachtstraum (op. 61))」とした。
いずれの説に与するにしろ、シェイクスピアの原題名には「midsummer」とあっても、それを「真夏」「盛夏」と解するのは語弊があると見るのが趨勢である(ただ「midsummer night」と訳されることもある真夏の時節に、8月1日のルグナサド(英語版)があり、この日はラマス祭(英語版)(『ロミオとジュリエット』第3幕第1場面を参照)の収穫祭に合致する)。
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